け、今出て行けと呶鳴《どな》ったことなども、我ながら浅ましく思われた。
 それに、妊娠でもしたとなると、何だか気が更《あらた》まるような気もする。多少の不安や、厭な感じは伴いながら、自分の生活を一層確実にする時期へ入って来たような心持もあった。
 お作はもう、お産の時の心配など始めた。初着《うぶぎ》や襁褓《むつき》のことまで言い出した。
「私は体が弱いから、きっとお産が重いだろうと思って……。」お作は嬉しいような、心元ないような目をショボショボさせて、男の顔を眺めた。新吉はいじらしいような気がした。
 お作は十二時を聞いて、急に針を針さしに刺した。めずらしく顔に光沢《つや》が出て、目のうちにも美しい湿《うるお》いをもっていた。新吉はうっとりした目容《めいろ》で、その顔を眺《なが》めていた。

     十五

 お作は婚礼当時と変らぬ初々《ういうい》しさと、男に甘えるような様子を見せて、そこらに散った布屑《きれくず》や糸屑を拾う。新吉も側《そば》で読んでいた講談物を閉じて、「サアこうしちアいられねえ。」と急《せ》き立てられるような調子で、懈怠《けだる》そうな身節《みぶし》がミリミリ言う
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