られもしねえ。産《うま》れ故郷となれア、トンビの一枚も引っ張って行かなけアなんねえし。……第一店をどうする気だ。」
お作は急に萎《しょ》げてしまう。
「こっちやそれどころじゃねえんだ。真実《ほんとう》だ。」
新吉はガブリと茶を飲み干すと、急に立ち上った。
十四
桜の繁《しげ》みに毛虫がつく時分に、お作はバッタリ月経《つきのもの》を見なくなった。お作は冷え性の女であった。唇《くちびる》の色も悪く、肌《はだ》も綺麗《きれい》ではなかった。歯性も弱かった。菊が移《すが》れるころになると、新吉に嗤《わら》われながら、裾《すそ》へ安火《あんか》を入れて寝た。これという病気もしないが時々食べたものが消化《こな》れずに、上げて来ることなぞもあった。空風《からかぜ》の寒い日などは、血色の悪い総毛立ったような顔をして、火鉢に縮かまっていた。少し劇《はげ》しい水仕事をすると、小さい手がじきに荒れて、揉《も》み手をすると、カサカサ音がするくらいであった。新吉は、晩に寝るとき、滋養に濃い酒を猪口《ちょく》に一杯ずつ飲ませなどした。伝通院前に、灸点《きゅうてん》の上手があると聞いたので、それ
前へ
次へ
全97ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング