騒《ざわ》ついて聞える。新吉は何だか長閑《のどか》なような心持もした。こうして坐っていると、妙に心に空虚が出来たようにも思われた。長い間の疲労が一時に出て来たせいもあろう。いくらか物を考える心の余裕《ゆとり》がついて来たのも、一つの原因であろう。
 お作は何《なん》かの話のついでに、「……花の咲く時分に、一度二人で田舎へ行きましょうか。」と言い出した。
 新吉は黙ってお作の顔を見た。
「別に見るところといっちゃありゃしませんけれど、それでも田舎はよござんすよ。蓮華《れんげ》や蒲公英《たんぽぽ》が咲いて……野良《のら》のポカポカする時分の摘み草なんか、真実《ほんと》に面白うござんすよ。」
「気楽言ってらア。」と新吉は淋しく笑った。「お前の田舎へ行くもいいが、それよか自分の田舎へだって、義理としても一度は行かなけアなんねえ。」
「どうしてまた、七年も八年もお帰んなさらないんでしょう。随分だわ。」お作は塩煎餅の、くいついた歯齦《はぐき》を見せながら笑った。
「そんな金がどこにあるんだ。」新吉は苦い顔をする。「一度行けア一月や二月の儲《もう》けはフイになっちまう。久しぶりじゃ、まさか手ぶらで帰
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