に托《あず》けて、和泉屋へ行くと言って宅《うち》を出た。
お作は後でほっとしていた。優しい顔に似合わず、気象はなかなか烈《はげ》しいように思われた。無口なようで、何でも彼でもさらけ出すところが、男らしいようにも思われた。昨夜《ゆうべ》の羽織や袴を畳んで箪笥にしまい込もうとした時、「其奴《そいつ》は小野が、余所《よそ》から借りて来てくれたんだから……。」と低声《こごえ》に言って風呂敷を出して、自分で叮寧に包んだ、虚栄《みえ》も人前もない様子が、何となく頼もしいような気もした。初めての自分には、胸がドキリとするほど荒い言《ことば》をかけることもあるが、心持は空竹《からたけ》を割ったような男だとも思った。この店も二、三年の中には、グッと手広くするつもりだから……と、昨夜寝てから話したことなども憶《おも》い出された。自分の宅《うち》の一ツも建てたり、千や二千の金の出来るまでは、目を瞑《つぶ》って辛抱してくれろと言った言《ことば》を考え出すと、お作はただ思いがけないような切ないような気がした。この五、六日の不安と動揺とが、懈《だる》い体と一緒に熔《とろ》け合って、嬉しいような、はかないような思
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