けの話ばかりしていねえで、ちょっとお飲《や》りよ。」と小野は向う側から高調子で声かけた。
新吉は罰《ばつ》が悪そうに振り顧《む》いて、淋しい顔に笑《え》みを浮べた。「笑談《じょうだん》じゃねえ。明日から頭数が一人殖えるんだ。うっかりしちゃいらんねえ。」と低声《こごえ》で言った。
「イヤ、世帯持ちはその心がけが肝腎です。」と和泉屋は、叔母とシミジミ何やら、談《はな》していたが、この時口を容《い》れた。「ここの家へ来た嫁さんは何しろ幸《しあわ》せですよ。男ッぷりはよし、伎倆《はたらき》はあるしね。」
「そうでございますとも。」と叔母は楊枝《ようじ》で金歯を弄《せせ》りながら、愛想笑いをした。
「これでお内儀さんを可愛がれア申し分なしだ。」と誰やらが混《ま》ぜッ交《かえ》した。
銚子が後から後からと運ばれた。話し声がいよいよ高調子になって、狭い座敷には、酒の香と莨《たばこ》の煙とが、一杯に漂うた。
「花嫁さんはどうしたどうした。」と誰やらが不平そうに喚《わめ》いた。
和泉屋が次の間へ行って見た。お作は何やら糸織りの小袖に着換えて、派手な花簪《はなかんざし》を挿《さ》し、長火鉢の前に、灯
前へ
次へ
全97ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング