うちにも優しい潤《うる》みをもって、腕組みしたまま、堅くなっていた。お作は薄化粧した顔をボッと紅《あか》くして、うつむいていた。坐った膝も詰り、肩や胸のあたりもスッとした方ではなかった。結立ての島田や櫛笄《くしこうがい》も、ひしゃげたような頭には何だか、持って来て載せたようにも見えた。でも、取り澄ました気振りは少しも見えず、折々表情のない目を挙《あ》げて、どこを見るともなく瞶《みつ》めると、目眩《まぶ》しそうにまた伏せていた。
和泉屋と小野は、袴をシュッシュッ言わせながら、狭い座敷を出たり入ったりしていたが、するうち銚子や盃が運ばれて、手軽な三々九度の儀式が済むと、赤い盃が二側《ふたかわ》に居並んだ人々の手へ順々に廻された。
「おめでとう。」という声と一緒に、多勢が一斉にお辞儀をし合った。
新吉とお作の顔は、一様に熱《ほて》って、目が美しく輝いていた。
七
盃が一順廻った時分に、小野がどこからか引っ張って来た若い謡謳《うたうた》いが、末座に坐って、いきなり突拍子な大声を張り揚げて、高砂《たかさご》を謳い出した。同時にお作が次の間へ着換えに起って、人々の前には膳が運ば
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