た。しかし堅気にしておけばおいたで、目に見えない金が消え、先の生活の保証のつく当てもなく、ゴールのないレースを無限に駈《か》けつづけているに等しかった。それに湯島時代でも経験したように、女房が嗅《か》ぎつけ、葛藤《かっとう》の絶え間がなかった。何よりも生活それ自体が生産機能でなければならなかった。松島と小菊はいつもそのことで頭を悩ました。小料理屋、玉突き、化粧品店、煙草《たばこ》の小売店、そんな商売の利害得失も研究してみた。彼は洋服屋に懲り懲りした。次第にお客が羅紗《ラシャ》の知識を得たこと、同業者のむやみに殖《ふ》えたこと、他へは寸法の融通の利かない製品の、五割近くのものが、貸し倒れになりがちなので、金が寝てしまうことなどが、資本の思うようにならないものにとって脅威であり、とかく大きい店に押されるのであった。
「だから貴方《あなた》もぶらぶらしていないで、自分で裁断もやり、ミシンにかかればいいじゃありませんか。」
年上のマダムは言うのであった。彼女は近頃財布の紐を締めていた。
「大の男がそんなまだるいことがしていられますか。よしんばそれをやってみたところで、行き立つ商売じゃないよ。
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