縮図
徳田秋声

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)片隅《かたすみ》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)草|蓬々《ぼうぼう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「※」は「てへん+毟」、第4水準2−78−12、323−上1]
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    日蔭《ひかげ》に居《お》りて

      一

 晩飯時間の銀座の資生堂は、いつに変わらず上も下も一杯であった。
 銀子と均平とは、しばらく二階の片隅《かたすみ》の長椅子《ソファ》で席の空《あ》くのを待った後、やがてずっと奥の方の右側の窓際《まどぎわ》のところへ座席をとることができ、銀子の好みでこの食堂での少し上等の方の定食を註文《ちゅうもん》した。均平が大衆的な浅草あたりの食堂へ入ることを覚えたのは、銀子と附き合いたての、もう大分古いことであったが、それ以前にも彼がぐれ出した時分の、舞踏仲間につれられて、下町の盛り場にある横丁のおでん屋やとんかつ屋、小料理屋へ入って、夜更《よふ》けまで飲
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