姐《ねえ》さんも気の毒よ。男の兄弟も多勢あるのに、どれもこれもやくざ[#「やくざ」に傍点]で、年がら年中たかられてばかりいるのよ。この土地建て初まりからの姐さんだけれど、今にお米の一升買いしてるという話だわ。あの弁士がまた為様《しよう》のない男で、お金がないというと、暴《あば》れまわって姐さんと取っ組み合いの喧嘩《けんか》をするそうだわ。」
しかし均平が窓から見たところでは、そんな様子もなく、館から帰って来ると、庭向きの部屋でビイルをぬき、子供をあやしたり、ダンス・レコオドをかけたりして、陽気なその日その日を暮らしていた。
五
均平は銀子の松次から言うと本家に当たる松の家で、風呂《ふろ》を入れてもらったり、電話を取り次いでもらったりしていたので、たまには二階へ上がってお茶を呑《の》み、金ぴかの仏壇の新仏《あらぼとけ》にお線香をあげることもあった。二階は八畳と六畳で、総桐《そうぎり》の箪笥《たんす》が三|棹《さお》も箝《は》め込みになっており、押入の鴨居《かもい》の上にも余地のないまでに袋戸棚《ふくろとだな》が設《しつら》われ、階下《した》の抱えたちの寝起きする狭苦し
前へ
次へ
全307ページ中81ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング