もう葬式のすんだ後であり、銀子も二度も使われた主人であるだけに、何か侘《わび》しげにしていた。
「あれからすぐ病院へ担《かつ》ぎこんだのよ。けどその時はもう駄目だったのね。お小水が詰まって、三日目にお陀仏《だぶつ》になってしまったの。入院する時私も送って行ったけれど、姐さんのことを、あれも年がいかないし、商売のことはわからないから、留守を何分頼むと言っていましたっけが、三人も子供があるし、お祖母《ばあ》さんもあるし、後がどうなりますか。でも姐さん年が若いし、泣いてもいなかったわ。」
「父さん父さんて、君の口癖にいうその親爺さんどんな人なんだい。」
「何でもお父さんが佐倉の御典医だったというから、家柄はいいらしいんだけれど、あの父さんは確かに才子ではあるけれど、ひどい放蕩者《ほうとうもの》らしいのよ。」
三
この松島の死んだ時、銀子は家にいなかった。
「父さん悪いのに、私出ていていいのかしら。」
彼女は松島の姑《しゅうとめ》に当たるお婆《ばあ》さんにきいてみた。
松島も父が佐倉藩の御典医であり、彼自身も抱えたちの前では帝大の医科の学生崩れのように言っていたので、銀子
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