あいさつ》したものか、それともこのまま富士見へ帰ったものかと、ちょっと躊躇《ちゅうちょ》した。ホテルもよかったが、父子《おやこ》二人きりよりか寛《くつろ》ぎがつきそうで、やはり銀子がいたのでは物が歯に挾《はさ》まったようであり、銀子も父子|揃《そろ》っているのは、傍《はた》で見る目にも羨《うらや》ましそうであったが、何となし相手の気持をもって行かれそうな感じであった。嫉妬《しっと》を感ずる理由は少しもなかったが、たまに外出した均平の帰りが遅かったりすると、すぐ子供たちのことが頭脳《あたま》に浮かぶのであった。
銀子が初めて不断着のままで、均平の屋敷を訪れた時、彼女は看板をかりていた家《うち》の、若い女主《おんなあるじ》と一緒であった。女主は誕生を迎えて間もない乳呑《ちの》み児《ご》を抱いていた。
ちょうど郁子の姉が監視に来ていたところで、廻り縁を渡って行く二人の後ろ姿を見、てっきり均平の情人が、均平の子供を背負《しょ》いこんで来たものと推断し、わざとひそかに庭へおりて、植込みの隙間《すきま》から、二人の坐っている座敷の方を覗《のぞ》いて見たりした。
姉は均平に実否《じっぴ》を糾《
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