二人もつかっていた相当の靴屋を、競馬道楽や賭事《かけごと》で摺《す》った果てに、自転車を電車にぶっつけ、頭脳《あたま》に怪我《けが》をしたりして、当分仕事もできなくなってしまった、そうしたさんざんの失敗はとにかく、親子が散り散りになることは、子供心に堪えられない悲しみであった。彼女はもうのそのそしてはいられないと考え、またいくらかの前借で主人の処《ところ》へ帰ることに決心したのであった。
するうち話もつき、加世子も何か気づまりで、町へ買物に出ようと言い出した。
「おばさんもお出《い》でになりません。」
「そうね、行きましょうか。私も何かお土産《みやげ》を買いたいんですの。」
「罐詰《かんづめ》でしたらかりん[#「かりん」に傍点]に蜂《はち》の子、それに高野《こうや》豆腐だの氷餅《こおりもち》だの。」
「ああ、そうそう。何でもいいわ。小豆《あずき》なんかないかしら。」
「さあどうだか。」
見ると均平は、昨夜の寝不足で、風に吹かれながら気持よげに眠っていた。起こすのも悪いと思って、そっと部屋を出たが、均平もうつらうつらと夢心地《ゆめごこち》に女たちの声を耳にしていた。
二人はぶらぶら
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