|挙《こぞ》って、蝙蝠傘《こうもりがさ》の袋や子供洋服や手袋などのミシンかけを内職にしていたが、手間賃が安いので口に追っつけず、大きい方の娘たちは空腹をかかえてしばしば夜明しで働かなければならなかった。
 銀子が話すと、悲惨なことがそう悲惨にも聞こえず、それかと言って、均一たちの身分との対照のつもりでもなかったが、加世子が気をまわせば、自分のしていることが、少し大袈裟《おおげさ》だというふうに取れないこともなかった。
 そのころ銀子は子柄が姉妹《きょうだい》たちよりよかったところから芸者屋の仕込みにやられ、野生的に育っただけに、その社会の空気に昵《なじ》まず、親元へ逃げて帰っていたり、内職の手伝いをしていたのだったが、抱え主も性急《せっかち》には催促もしず、気永に帰るのを待つことにしていた。ある夜銀子がふと目をさますと、父と母とが、ぼそぼそ話しているのが耳につき、聴《き》き耳を立てていると、世帯《しょたい》をたたんで父は大きい方を二人、母は小さい方を二人と、子供を二つに分けて、上州と越後《えちご》とめいめいの田舎《いなか》へ帰る相談をしていることがわかり、その心情が痛ましくなり、小僧を
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