るテイブル》を囲み、取り寄せた林檎《りんご》を剥《む》いて食べながら、このごろの頭髪《あたま》の流行などについてひそひそ話していた。
「私も今生きていると、いい年増《としま》の姉が二人もいたのよ。だけど、それは二人とも結核でしたわ。大きい方の姉は腕の動脈のところがぽつりと腫《は》れて、大学で見てもらっても、初めははっきりしたことが解《わか》らなかった。そのうちにだんだんひどくなってとても痛んで、夜だっておちおち眠れないもんですから、一晩腕をかかえて泣いていましたわ。朝と晩に膿《うみ》を吸い取るために当ててある山繭《やままゆ》とガアゼを、自分でピンセットで剥《は》がしちゃ取り替えていましたけれど、見ちゃいられませんでしたわ。」
「動脈の結核なんてあるの。恐《こわ》いわね。」
「もう一人は肺でしたけれど……、でもそういう時は、女の子ばかり五人もいて、家《うち》も貧乏でしたからできるだけのことはするつもりでも、仕方がないから当人も親たちもいい加減|諦《あきら》めてしまうのね。」
 銀子は姉たちの病気の重《おも》なる原因が栄養不良から来たものだということをよく知っていた。そのころ彼女たちは一家
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