。しかしなまじっか学問なんか噛《かじ》りちらすより、土弄《つちいじ》りでもしていた方がよかったかも知れんよ。詩を作るより田を作れって、昔しから言うが、こんな時代になって来ると、鉄や油も必要だが、食糧の方がもっと大切だからね。」
加世子は女中と顔を見合わせ、くすくす笑っていたが、銀子も話は好きで、「大地」の中に出て来る農民の土への執着や、※[#「※」は「虫+奚」、第3水準1−91−59、348−上24]※[#「※」は「虫+斥」、第3水準1−91−53、348−上24]《ばった》の災害の場面について無邪気に話したりした。
それからこの辺の飯の話になり、日本米を食べるために、わざわざ地方へ旅する人も少なくなく、飯食いの銀子も、それが一つの目当てで、同伴したというのだった。
和《なご》やかな食事がすんでから、銀子は三人を三階の洋室へ案内したが、そこからは湖水が一目に見え、部屋も加世子の気に入った。
「いいお部屋ね。」
「よかったら加世子さん、今夜ここにお泊まりになっては。」
十
均平がヴェランダで籐椅子《とういす》にかけ、新聞を見ていると、女たちは部屋のなかで円卓子《ま
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