そのころになると、電車も敷けて各区からの距離も短縮され、草|蓬々《ぼうぼう》たる丸の内の原っぱが、たちどころに煉瓦《れんが》造りのビル街と変わり、日露戦争後の急速な資本主義の発展とともに、欧風文明もようやくこの都会の面貌《めんぼう》を一新しようとしていた。銀座にはうまい珈琲《コオヒー》や菓子を食べさす家《うち》が出来、勧工場《かんこうば》の階上に尖端的《せんたんてき》なキャヴァレイが出現したりした。やがてデパートメントストアが各区域の商店街を寂れさせ、享楽機関が次第に膨脹するこの大都会の大衆を吸引することになるであろう。
この裏通りに巣喰《すく》っている花柳界も、時に時代の波を被《かぶ》って、ある時は彼らの洗錬された風俗や日本髪が、世界戦以後のモダアニズムの横溢《おういつ》につれて圧倒的に流行しはじめた洋装やパーマネントに押されて、昼間の銀座では、時代錯誤《アナクロニズム》の可笑《おか》しさ身すぼらしさをさえ感じさせたこともあったが、明治時代の政権と金権とに、楽々と育《はぐく》まれて来たさすが時代の寵児《ちょうじ》であっただけに、その存在は根強いものであり、ある時は富士や桜や歌舞伎《
前へ
次へ
全307ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング