が高いわね。氷で冷やしている病人があるのに、もっと低くしないかな。」
均平は加世子と女中が寝床を延べている間、階下《した》へおりて、玄関の突当りにある電話室へ入って、上諏訪のホテルへ電話をかけ、銀子を呼び出した。
「何だか雨がふって退屈で仕様がないから、今下へおりてラジオを聞いているところなの。」
銀子の声が環境が環境だけに一層晴れやかに聞こえた。
「均一さんどんなでした。」
均平は今夜はここに一泊して、明日病院へ行くつもりだということだけ知らせ、受話機をおいた。そして廊下の壁に貼《は》り出してある、汽車の時間表など見てから、二階へあがった。まだ寝るには少し早く、読むものも持って来たけれど、読む気にもなれず、加世子と何か話そうとしても、久しぶりで逢《あ》っただけに話の種もなく、三村家一族のことに触れるのも何となしいやであった。三村は千万長者といわれ、三十七八年の戦争の時、ぼろ船を買い占めて儲《もう》けたのは異数で、大抵各方面への投資と土地で築きあげた身上《しんしょう》であり、自身に経営している産業会社というようなものはなく、起業家というより金貸しと言った方が適当であった。論語くら
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