あの環境が自分に適したところとは思えず、この商売にも好感はもてなかったが、ひところの家庭の紛紜《いざこざ》で心の痛手を負った時、彼女のところへやって来ると、別に甘い言葉で慰めることはしなくても、普通商売人の習性である、懐《ふところ》のなかを探るようなこともなく、腹の底に滓《おり》がないだけでも、爽《さわ》やかな風に吹かれているような感じであった。それにもっと進歩した新しい売淫《ばいいん》制度でも案出されるならいざ知らずとにかく一目で看通《みとお》しがつき、統制の取れるような組織になっているこの許可制度は、無下に指弾すべきでもなかった。雇傭《こよう》関係は自発的にも法的にも次第に合理化されつつあり、末梢的《まっしょうてき》には割り切れないものが残っていながら、幾分光りが差して来た。進歩的な両性の社交場がほかに一つもないとすれば、低調ながらも大衆的にはこんなところも、人間的な一つの訓練所ともならないこともなかった。
もちろん抱え主の側《がわ》から見た均平の目にも、物質以外のことで、非人道的だと思えることも一つ二つないわけではなく、それが男性の暴虐な好奇心から来ている点で、許せない感じもす
前へ
次へ
全307ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング