幕明き前のざわつく廊下を小股《こまた》にせかせか歩きながら、棧敷《さじき》の五つ目へ案内し、たらたらお世辞を言って、銀子の肩掛けをはずしたり、コオトを脱がせたり、行火《あんか》の加減を見たりした。
瀬川は四十を一つ二つ出たばかりで、蒼《あお》みがかった色白の痩《や》せ形で、丈《たけ》も中ぐらいであったが、大きな目の感じが好い割に、頬骨《ほおぼね》や顎《あご》が張り加減で、銀子もお世辞を言われて、少し胸の悪いくらいであった。
出しものは大菩薩峠《だいぼさつとうげ》に温泉場景などであったが、許嫁《いいなずけ》の難を救うために、試合の相手である音無し流の剣道の達人机龍之助に縋《すが》って行くお浜が、龍之助のために貞操を奪われ、許嫁の仇《あだ》である彼への敵意と愛着を抱《いだ》いて、相携えて江戸に走り、結局狂った男の殺人剣に斃《たお》れるという陰鬱《いんうつ》な廃頽《はいたい》気分に変態的な刺戟《しげき》があり、その時分の久松と沢正の恋愛が、舞台のうえに灼熱的《しゃくねつてき》な演技となって醗酵《はっこう》するのであったが、銀子も大阪から帰りたての、明治座の沢正を見ており、腐っていたその劇
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