場で見た志賀《しが》の家《や》淡海くらいのものかと思っていたので、頼まれてお義理見をしたくらいだった。しかし沢正の人気は次第に高まり、今あらためて見て芸に油の乗って来たことが解《わか》り、一座を新しく見直したのであった。
 後に銀子も沢正の座敷に一座し、出が出だけに歌舞伎《かぶき》や新派ほど役者の気取りがなく、学生丸出しで、マークの柳に蛙《かえる》の絵を扇子に気軽に描《か》いてくれたり、同じマークの刻まれたコムパクトをくれたりするので、芸者の間にも受けがよく、一座するのを光栄に思うのであった。
「晴《はア》ちゃん、すみませんが、今夜は一つ私に附き合って下さい。姐《ねえ》さんにも通しておきましたから、どうかそのつもりでね。皆さんもお呼びしておきました。たまにはいいでしょう。」
 やがてはねるころになって、瀬川は土産物《みやげもの》などを棧敷へ持ちこみ、銀子が独りでいるところを見て、にやにやしながら私語《ささや》いた。

      十六

 芝居の帰りに、銀子は梅園横丁でお神に別れ、「いやな奴《やつ》」と思いながら、ほかの妓《こ》も行っているというので、教えられた通り、大川端《おおかわば
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