れたら来てくれないかと、簡単に用事だけ書いてあった。
均一と均平の親子感情は、決して好い方とは言えなかった。それはあまりしっくりも行っていなかった。家付き娘以上の妻の郁子《いくこ》との夫婦感情を、そのまま移したようなものだったが、郁子が同じ病気で死んで行ってから主柱が倒れたように家庭がごたつきはじめた時、均平の三村本家に対する影が薄くなり、存在が危くなるとともに、彼も素直な感情で子供に対することができなくなり、子供たちも心の寄り場を失って、感傷的になりがちであった。均一は学課も手につかず喫茶店やカフエで夜を更《ふ》かし煙草《たばこ》や酒も飲むようになった。
泰一という郁子の兄で、三村家の相続者である均一の伯父《おじ》が、彼を監視することになり、その家へ預けられたが、泰一自身均平とは反《そ》りが合わなかったので、均一の父への感情が和《なご》むはずもなかった。それゆえ出征した時も、入院中も均平はちょっと顔を合わしただけで、お互いに胸を披《ひら》くようなことはなかった。均一は工科を卒業するとすぐ市の都市課に入り、三月も出勤しないうちに、第一乙で徴召され、兵営生活一年ばかりで、出征したのだ
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