のに如才がなかった。
「こちらは何と言っても玉|揃《ぞろ》いで、皆さんお綺麗《きれい》でいらっしゃいますよ。」
彼はそんなお世辞を言い、
「そのうち私も一つどこかでお呼びしますから、皆さんお揃いでいらして下さい。」
と言うので、お神も反《そ》らさず、
「どうぞぜひ、ほかはどうか分かりませんが、このごろ家《うち》は閑《ひま》で困るんですよ。」
そのころ大阪ですばらしい人気を呼んだ大衆劇の沢正《さわしょう》が、東京の劇壇へ乗り出し、断然劇壇を風靡《ふうび》していたが、一つは水際《みずぎわ》だった早斬《はやぎ》りの離れ業《わざ》が、今までのちゃんばらに一新紀元を劃《かく》したからでもあり、机|龍之介《りゅうのすけ》や月形半平太が、ことにも観衆の溜飲《りゅういん》を下げていた。
後から考えれば、すべては諜《しめ》し合わされた狂言の段取りであったようにも思えるのだったが、その時には銀子もぼんやりしていて、格別芝居好きでもないので、進んで見ようとも思わなかったが、沢正の人気は花柳界にも目ざましいので、ある日お神が瀬川に電話をかけて、場所を取ってもらうようにというので、銀子はその通りにして、
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