そのころになると、春よしのお神にも慾が出て来て、もう少し養生したら、気分のよい時、いずれ梅村さんも近いことだから、遊びに来てはどうかと言うのだったが、引き裂いた証書は実は写しで、本物は担保に取った大場の手元にあるのはとにかくとして、その言い分にも理窟《りくつ》がないわけでもなく、あの病気のひどい絶頂に、夜昼をわかず使った氷代だけでも、生やさしい金ではなかった。
「かかったものを全部証書にとは言いません。気の向く時ぼつぼつお座敷へ出てもらえば、結構なんですがね。」

      十五

 そのころ、春よしのお神が、裏木戸の瀬川さんと呼んでいる芝居ものの男が、ちょいちょい春よしへ現われ、場所を取ってくれたり、切符をもって来てくれたりした。裏木戸と言っても、瀬川はもとより俳優の下足を扱う口番でもなく、無論頭取部屋に頑張《がんば》っている頭取の一人でもなかったが、香盤《こうばん》の札くらいは扱っており、役者に顔が利いていた。お神が切れるところから、彼は来るたびに何かおつな手土産《てみやげ》をぶら下げ、時には役者の描《か》き棄《す》てた小幅《しょうふく》などをもって来て、お神を悦に入らせる
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