かぶき》俳優や花柳界など、意気筋の客で、夏は旅館も別荘も一杯になり、夜は石の段々を登り降りする狭い街《まち》が、肩の擦《す》れ合うほどの賑《にぎ》わいなのだが、銀子の行った時分には、まだそれほどでもなく部屋は空《す》いていた。
銀子は看護婦に切られた髪が、まだ十分に伸びそろわず、おまけに父親の姉が、生命《いのち》の代りに生髪を鎮守の神に献《ささ》げる誓いを立てたというので、本復した銀子の髪の一束を持って行ってしまったので、恥ずかしいくらい頭が寂しかったが、それよりも湯からあがると、思いのほかひどい疲れを感じ、段々を登るにも母の手を借りなければならなかった。
「お前|一時《いっとき》に入らん方がいいよ。ああどうして、ここは湯が強いんだから、そろそろ体を慣らさんけりゃ。」
母は言っていたが、二日三日たっても、湯に馴染《なじ》めそうには見えず、花の萎《しぼ》むような気の衰えが感じられるのだったが、湯を控えめにしていても、血の気の薄くなった躰《からだ》に、赤城《あかぎ》おろしの風も冷たすぎ、肺炎がまたぶり返しそうな気がしてならなかったので、五日目の晩帰ることに決め、翌日の朝電車で山をおりた
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