いやだから、外へ連れ出してくれとか、そこに姐《ねえ》さんがいるから、早くそっちへ退《の》けてくれとか、そうかと思うと、役者の名を口走ったり、芸者の身のうえを呪ったりするのだったが、親の使いでよく明日の米の代を取りに来た妹に言うらしく、気をつけて早くお帰りなどと、はっきり口を利くこともあった。末の娘を負ぶった大きい妹が、二階の三畳に寝ている銀子の傍に坐って、姉の目覚《めざ》めをじっと待っていたことも、彼女の頭脳《あたま》に日頃深く焼きついているのだった。
するうち悲哀に包まれた人々の環視のうちに、注射の利き目は次第に衰え、銀子の目先に黒い幕が垂れ、黒インキのようにどろどろした水の激流に押し流されでもするように、銀子は止め度もなくずるずる深く沈んで行き、これが死ぬことだと思った瞬間に、一切が亡くなってしまった。
十三
しかし銀子の生命の火はまだ消え果てず、二日ばかりすると、医師が動かしてはいけないというのを、彼女の希望どおり春よしの二階から担架でおろされ、寝台車で錦糸堀の家の二階へと移された。医師は途中を危ぶみ、手当をしてくれたうえ、自身付き添ってくれたが、そろそろ両国
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