。
「どうだえ楽になったかい。」
医師は脈を取りながら言った。
「なに、これ。」
銀子は洋服の釦《ボタン》が花に見え、微《かす》かに言ったが、医師には通ぜず、
「晴子は可愛《かわい》い子だよね。」
と額を撫《な》でた。
若林とお神は、次ぎの六畳で何か私語《ささや》いていたが、お神はやがて箪笥《たんす》のけんどんの錠をあけ、銀子の公正証書を取り出して来て、目の先きで引き裂いて見せた。
「お前これで何も心配することはない。芸者では死なない死なないと言っていたでしょう。この通り証文を引き裂いたから、お前はもう芸者じゃないよ。安心しておいで。」
お神はそう言って涙を拭《ふ》いたが、昏睡《こんすい》中熱に浮かされた銀子は、しばしば呪《のろ》いの譫言《うわごと》を口走り、春次や福太郎が傍《そば》ではらはらするような、日常|肚《はら》に畳んでおいたお神への不満や憤りを曝《さら》け出したりしたので、九分九厘まで駄目となったこの際に、心残りのないように、恩怨《おんえん》に清算をつけるのだった。
銀子の譫言も、こんな家《うち》にいたくないから、早く田舎《いなか》へやってくれとか、ここで死ぬのは
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