けれん」に傍点]の達者な松竹座の福円などを見たものだったが、そのころ浅草を風靡《ふうび》しているものに安来節《やすぎぶし》もあった。
 花月園では、外で一と遊びすると、もう昼で、借りきりの食堂でたらふく飲み食い、芝居や踊りも見つくして三十四五の中番頭から二十四五の店員十数人と入り乱れ、鬼ごっこや繩飛《なわと》び、遊動木に鞦韆《ぶらんこ》など他愛なく遊んでいるうちに、銀子がさっきから仲間をはずれ、木蔭《こかげ》のロハ台に、真蒼《まっさお》な顔をして坐っているのに気がつき、春次も福太郎もあわてて寄って来た。
「どうかしたの晴《はア》ちゃん。今朝からどうも元気がないと思ったんだけれど、何だか変だよ。」
「風邪《かぜ》よ。」
 銀子は事もなげに言って、ロハ台を離れて歩こうとしたが、頭がふらふらして足ががくがくして、そのまま芝生のうえに崩れてしまった。
「ちょいとどうしたというの。歩けないの。」
「これあいけない。よほど悪いんだよ。」
 そういう福太郎や春次の声も、銀子の耳には微《かす》かに遠く聞こえるだけであった。
 銀子は春次の肩に凭《もた》れ、食堂に担《かつ》ぎこまれて、気付けや水を飲まさ
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