った。
「どうしたの一体。」
銀子が銚子《ちょうし》をもつと、
「さあ、どうしたというんだか、己《おれ》の方からも訊きたいくらいだよ。」
そう言って笑いながら注《つ》いで呑んだ。
「だけどね晴さん、率直に言っておくけれど、気を悪くしないでくれたまえ。」
銀子は勝手がわからず、
「何さ。」
と相手を見た。
「君も若ーさんという人があるんだろう。」
「そうよ。」
「だからせっかくだけれど、己はそういうことは大嫌《だいきら》いさ。ただ友達として清く附き合う分にはかまわないと思う。」
「どうでもいいのよ、私だって。」
十
春の七草に、若林は銀子のペトロンとして春よしの芸者全部に昼間の三時から約束をつけ、藤川へ呼んだ。年増《としま》の福太郎と春次は銀子と連れ立ち、出の着附けで相撲《すもう》の娘の小福を初め三人のお酌《しゃく》と、相前後して座敷に現われ、よそ座敷に約束のある芸者も、やがて屠蘇機嫌《とそきげん》で次ぎ次ぎに揃《そろ》い、揃ったかと思うと、屠蘇を祝い御祝儀《ごしゅうぎ》をもらって後口へ廻るものもあった。姐《ねえ》さん株の福太郎と春次が長唄《ながうた》の地方《じ
前へ
次へ
全307ページ中279ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング