ぞお買いなさいまし。」
「入って見てもいい?」
「ああいいよ。どれでもいいのを。」
「わーさん見てよ。」
「君の好きなの買えばいいじゃないか。ただし買うならいいのにおし。」
 若林が金をくれるので、銀子は店に入り、あっちこっち見てあるき、
「ねえ――」と振りかえると、彼の姿は見えず、表へ出て見ても影も形も見えなかった。
 彼はそういうことには趣味をもたず、何を買うにも金を吝々《けちけち》しないで、米沢町のどこの店に欲しい小紋の羽織が出ているとか、誰某《たれそれ》のしていたような帯が買いたいとか、または半襟《はんえり》、帯留のような、買ってもらいたいものがあり、一緒に行って見てほしいと思っても、女の買物は面倒くさいから御免だとばかりで、店頭《みせさき》で余計なものを買わせられるよりもと思って、ほどよく金はくれはするが、一度も見立ててくれたことはなかった。
「それが上方気質《かみがたかたぎ》というものなのかしら。」
 銀子は思うのであったが、時に一緒に歩いている時、コンパクトとか下駄《げた》とか、珍しく見立てて買ってくれるかと思うと、決まってそれとほぼ同値の、またはそれより少し優《ま》しの
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