浴室であったが、二階にも父母の肖像のかかっている八畳の客間に、箪笥《たんす》の並んでいる次ぎの間があり、物干もゆっくり取ってあった。あたかも銀子が不断|頭脳《あたま》に描いていたような家で、若林は客間の方で銀子に写真帖などを見せ、紅茶を御馳走《ごちそう》したが、自分の家《うち》でいながら、人の家へでも来たようなふうなので、銀子も戸惑いした猫《ねこ》のように、こそこそ帰ってしまった。それに湯殿の傍《そば》にある便所で用を足すと、手洗のところに自分の紋と芸名を染め出した手拭《てぬぐい》が、手拭掛けにかけてあり、いやな気持だった。
「いやね、私の手拭便所に使ったりして。」
 銀子が面白くなさそうに言うと、
「うむ、女房も薄々感づいているんだよ。」
 と若林も苦笑していた。
 夏のころも二人は国技館のお化け大会を見に行った帰りに、両国橋のうえをぶつぶつ喧嘩《けんか》をしながら、後になり先になりして渡って来たが、米沢町の処《ところ》に箪笥屋があり、鏡台も並んでいるので、銀子は千葉以来の箪笥が貧弱なので、一つほしいと思っていたところなので、
「私鏡台が一つ欲しいわ。」
 と言うと、若林も、
「どう
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