うからいけないんだ。いつ僕がお前を翫具にしたと言うんだ。このくらい愛していれば沢山じゃないか。」
 そのころ銀子は、箱崎町《はこざきちょう》の本宅へ還《かえ》る若林を送って、土州橋の交番の辺《あたり》まで歩き、大抵そこで別れることにしていたが、交番の巡査も若林を見ると、お互いににっこりして挨拶《あいさつ》するくらい、それは頻繁《ひんぱん》であった。
「お前《ま》はんそれじゃ情が薄いというもんやないか。あすこから一停留所も行けば、そこがわーさんのお宅や。送りましょうか送られましょうか、せめて貴方《あなた》のお門《かど》までというどどいつ[#「どどいつ」に傍点]の文句を、お前はんしりへんのか。」
 とお神にいわれ、宅まで送ることにしたが、若林の女房が母の病気見舞でちょうど田舎《いなか》へ帰っていたので、誰もいないから、ちょっと寄ってみないかと、若林が言うので、銀子も彼の家庭生活の雰囲気《ふんいき》に触れたくはなかったが、ついて行ってみた。ここも通りに向いた方は、事務机や椅子《いす》がおいてあり、奥は六畳の茶の間と八畳の居間で、特に銀子の羨《うらや》ましく思えたのは、文化的に出来ている台所と
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