念はなかったが、主人にも算盤を弾くことをいやがるのがあり、春よしのお神の、勘定をきちきちしないのも、あながち狡猾《ずる》いとばかりも言えなかった。
 彼女は簿記台に坐って毎朝玉帳につけていても、芸者への勘定はついしたことがなく、計算の頭脳《あたま》をもたない一般の慾張りと同じく、取るものは取っても、払うものは払い汚くなりがちであった。彼女は帳面がこぐらがって来て、手におえなくなると、そのころ株式に勤めていた伊沢《いざわ》という男に来てもらい、会計検査をしてもらうことにしていたが、それも単に数字のうえのきまりだけで、実際生活上の経済はやっぱりこぐらがっているのだった。
 ひどく派手っ気な彼女は、どうかすると全く辻褄《つじつま》の合わないことをやり、女一人でいると、時には何か自分の閉じ籠《こ》もっている牢獄《ろうごく》の窓を蹴破《けやぶ》って飛び出し、思う存分手足を伸ばし胸を張り呼吸をしてみたくもなるものと見え、独りで盛装して出て行き、月に二三度くらいは行くことにしていた料亭《りょうてい》に上がり、家に居残っている抱え全部に、よその芸者も一流どころの年増《としま》連をずらりと並べ、看板の宣
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