とい貧しいものでも、腹一杯食べさせることにしていたからで、出先の料亭《りょうてい》から上の抱えが、姐《ねえ》さんへといって届けさせてくれる料理まで子供たちの口には、少しどうかと思われるようなものでも、彼女は惜しげもなく「これみんなで頒《わ》けておあがり」と、真中へ押しやるくらいにしているので、来たての一ト月くらいは、顔が蒼《あお》くなるくらい、餓鬼のように貪《むさぼ》り食べる子も、そうがつがつしなくなるのであった。子供によっては親元にいた時は、欠食児童であり、それが小松川とか四ツ木、砂村あたりの場末だと、弁当のない子には、学校で麺麦《パン》にバタもつけて当てがってくれるのであったが、この界隈《かいわい》の町中の学校ではそういう配慮もなされていないとみえて、最近出たばかりのお酌の一人なぞは、お昼になると家へ食べに行くふりをして、空腹《すきばら》をかかえてその辺をぶらついていたこともたびたびであり、また一人は幾日目かに温かい飯に有りついて、その匂いをかいだ時、さながら天国へ昇ったような思いをするのであった。この子は二人の小さい仕込みと同じ市川に家があるので、大抵兵営の残飯で間に合わすことに
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