んな子がと思うようなのが、すばらしく当たった例を二つ三つ挙げてみせた。
「だからこれだけは水ものなのよ。一年も出してみて、よんど駄目なら台所働きにつかってもいいし、芸者がなくなれば、あんなのでも結構時間過ぎくらいには出るのよ。」
 もちろん見てくれがいいから出るとも限っていなかった。いくら色や愛嬌《あいきょう》を売る稼業《かぎょう》でも、頭脳《あたま》と意地のないのは、何年たっても浮かぶ瀬がなかった。

      八

 銀子は誰が何時に出て、誰がどこへ行っているかを、黒板を見たり子供に聞いたりしていたが、するうちお酌《しゃく》がまた一人かかって来て、ちょっと顔や頭髪《あたま》を直してから、支度《したく》に取りかかった。そしてそれが出て行くとそこらを片着け多勢の手で夕飯の餉台《ちゃぶだい》とともにお櫃《はち》や皿小鉢《さらこばち》がこてこて並べられ、ベちゃくちゃ囀《さえず》りながら食事が始まった。
 この食事も、彼女たちのある者にとっては贅沢《ぜいたく》な饗宴《きょうえん》であった。それというのも、銀子自身が人の家に奉公して、餒《ひも》じい思いをさせられたことが身にしみているので、た
前へ 次へ
全307ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング