りほかないんだ。現に商売が成り立ってる人もあるじゃないか。」
「それはそうなのよ。世話のやける抱えなんかおくより自分の体で働いた方がよほど気楽だというんで、いい姐《ねえ》さんが抱えをおかないでやってる人もあるし、桂庵《けいあん》に喰われて一二年で見切りをつけてしまう人もあるわ。かと思うと抱えに当たって、のっけ[#「のっけ」に傍点]からとんとん拍子で行く人もたまにはあるわ。」
 つまり好いパトロンがついていない限り、商売は小体《こてい》に基礎工事から始めるよりほかなかった。何の商売もそうであるように、金のあるものは金を摺《す》ってしまってからやっと商売が身につくのであった。
 とにかく銀子は、いろいろの人のやり口と、自身の苦い経験から割り出して抱えはすべて仕込みから仕上げることに方針を決めてしまい、それが一人二人順潮に行ったところから、親父《おやじ》の顔のひろい下町の場末へ手をまわして、見つかり次第、健康さえ取れれば、顔はそんなによくなくても取ることにした。
「あんなのどうするんだい。」
 粒をそろえたいと思っている均平が言うと、銀子は、
「あれでも結構物になりますよ。」
 と言って、こ
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