まり商売に馴《な》れてもいないので、子供の見張りや、芸事を仕込んでもらうつもりで、烏森《からすもり》を初め二三カ所渡りあるいたという、二つ年上の女を、田村町から出稽古《でげいこ》に来る、常磐津《ときわず》の師匠の口利きで抱えてみると、見てくれのよさとは反対に、頭がひどい左巻きであったりした。一年間も方々の病院をつれ歩いてみても、睫毛《まつげ》や眉毛《まゆげ》を蝕《むしば》んで行く皮膚病に悩まされたこともあり、子柄がわるい代りに病気がないのが取柄だと思うと、親がバタヤで質《たち》が悪く、絶えず金の無心で坐りこまれたりした。銀子もいろいろの世間を見て来て、時には暴力団や与太ものの座敷へも呼ばれ、娘や女を喰《く》いものにしている吸血児をも知っていたが、女ではやっぱり甘く見られがちで、つい二階にいる均平に降りてもらうことになるのだったが、均平も先の出方では、ややもするとしてやられがちであった。
「いやな商売だな。」
 均平がいうと銀子も、
「そうね、止《よ》しましょうか。」
「いやいや、君はやっぱりこの商売に取りついて行くんだ。泥沼《どろぬま》のなかに育って来た人間は、泥沼のなかで生きて行くよ
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