っている。」
 お神は船から起《た》ちあがる銀子の姿を見つけ、
「今時分そんな処《ところ》に何しているのさ。早く上がっておいで。」
 銀子は車夫の手に縋《すが》って棧橋へあがり、三人の間に挟《はさ》まって陸《おか》へ上がって来た。
「新潮楼へ電話をかけると、二時間も前に帰ったというし、一時にもなるのにどこをうろうろしているのかと思って、方々捜したんだよ。まさかこんな処へ来ていようとは思わないしさ。あんた死ぬつもりだったの。」
「いいえ。少し呑《の》みすぎて、苦しかったもんですから、河風に吹かれていたんです。」
 銀子は気軽に答え、家へ帰ると急いで寝所へ入ってしまったが、新聞の記事が頭脳《あたま》に絡《まつ》わり、時機を待てと、あれほど言っていた倉持の言葉も思い出され、こごた辺を通過する時、汽車の窓から見える、新婦の生家である、あの蓊鬱《こんもり》した森のなかにある白壁の幾棟《いくむね》かの母屋《おもや》や土蔵も目に浮かんだりして、ああいった人たちはやはりああいった大家でなくては縁組もできないものなのかと、考えたりもした。
 二三日すると銀子もようやく決心がつき、家へ手紙を書いたが、そう
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