なるとせっかく馴染《なじ》んだこの土地も、見るもの聞くものが、不愉快になり、東京から人の来るのが待遠しくてならず、気を紛らせに、家へ遊びに来る写真屋を誘い出して、最後の玉稼《ぎょくかせ》ぎに料亭《りょうてい》へ上がったりした。写真屋は倉持が結婚してからは、好運が急角度で自分の方に嚮《む》きかえり、時節が到来したように思われ、大島の対《つい》の不断着のままの銀子を料亭の庭の松の蔭《かげ》に立たせて、おもむろにシャッ[#底本では「ッ」を、「ソ」を小さくしたものと誤植、427−下8]タアを切るのだったが、二階へあがって来ると、呑めもせぬ酒を注《つ》ぎ、厳《おごそ》かな表情で三々九度の型で、呑み干したり干させたりした。
「そんなことしたって、私|貴方《あんた》の奥さんにならないわよ。」
「いや、僕はおもむろに時機を待つですよ。」
銀子もこの辺がちょうど好い相手かとも思い、彼のいう通り、誠意に絆《ほだ》される時機が来るように思えたりもするのだったが、差向いでいると、どうにも好感がもてず、「こん畜生!」とつい思うのであった。
ちょっと引っ係りのあった、芳町の芸者屋の主人が、看板借りの年増《とし
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