「何でもないわよ。お客というほどのこともないのよ。たまに釜飯屋《かまめしや》を附き合うくらいなのよ。あの男は天下に釜飯くらいうまいものはないと言ってるくらいだもの。ただ東京へ行くから、何か家へ言伝《ことづて》がないかと煩《うるさ》くいうから、干物なんかことづけてやるだけなのよ。」
 写真屋がわざわざ高野山まで採りに行ったという肺病の薬を、銀子はあの時妹に呑《の》ませるように、家へ送ったのだったが、父にきくと、あれを二罐|服《の》んですっかり快《よ》くなったから、あったらもう少し頼んでくれと言うのだったが、写真屋に話してみると、
「あああれかね、僕も来年の夏もう一度採りに行くかも知れんから、採って来たらやるよ。」
 と言ったきりであった。
 ある日も銀子が、みんなと食卓にすわって、三時ごろの昼御飯を食べていると、玄関続きの部屋の廊下に人影が差し、振り向いてみると、しばらく姿を現わさなかった倉持であった。
「まあ、おめずらしい。どうなすったかと、今も噂《うわさ》していたところですよ。」
 お神はお愛想《あいそ》を言ったが、倉持は何となく浮かぬ顔で、もぞもぞしていたが、よく見ると彼は駱駝
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