って、緊張した顔をしていたが、看《み》ると鞄が一つ床の間においてあった。縁側から畳のうえに薄い秋の西日が差し、裏町に飴屋《あめや》の太鼓の音がしていた。
「どうしたの、旅行?」
銀子がきくと、倉持はにっこりして、
「いや、そういうわけじゃないが、何だか家《うち》の形勢が変だから、僕の名義の株券を全部持ち出して来たんだ。」
「そう、どうして?」
「どうも母が感づいて、用心しだして来たらしいんだ。この間山を少しばかり売ろうと思ってちょっと分家に当たってみたところ、買わないというから、誰か買い手がないか聞いてみてくれないかと頼んでみたけれど、おいそれとすぐ買手がつくものでないから、止した方がいいだろうと言うんだ。分家の口吻《くちぶり》じゃ、渡の叔父《おじ》が先手をうって警戒網を張っているものらしいんだ。」
「それで株券を持ち出したというわけなのね。」
「叔父は肚《はら》が黒いから、おためごかしに母を手懐《てなず》けて、何をするか知れん。これを当分君に預けておくから、持って帰ってどこかへ仕舞っておいてくれ。」
「そんなもの置くとこないわ。第一家の人たちと叔父さんとなあなあかも知れないから、こ
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