せず、体刑で済ましたやり方の巧妙さが、とにかく土地の人の賞讃を博し、鈴弁とは比較にならぬ智慧者《ちえしゃ》として、犯罪と差引き勘定をすることで、半面詐欺に罹《かか》ったものの迂濶《うかつ》さに対する皮肉の意味も含まれており、勝利者と敗北者への微妙な人間の心理作用でもあった。
どっちにしても寒さに向かってのことであり、猪野も神経衰弱で不眠症に陥っていたので、金と弁護士の力で、入獄は春まで延期され、彼は当分家にじっとしていたが、時も時、土地の郵便局長の公金費消の裁判事件が、新聞の社会面を賑《にぎ》わし、町も多事であった。
それらの事件をよそに、倉持はある時、どこか旅行でも思い立ったように、何かぎっちり詰まった鞄《かばん》を提《さ》げて、船で河《かわ》を下り、町に入って来た。
いつもの出先から、女中が走って来て家を覗《のぞ》き、
「寿々龍さんいるけ。」
鏡台の前で鬢《びん》をいじっていた彼女が、振り向くと、
「倉持さん来たから、早く来な。」
銀子が顔を直し、仕度《したく》をして行ってみると、薄色の間《あい》の背広を着た倉持は、大振りな赭《あか》い一閑張《いっかんばり》の卓に倚《よ》
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