かして芸者屋を出させ、抱えも二人までおいてやった女を、たとい二年たらずの刑期の間でも、置いて行くのは心残りであった。
猪野はこの町の閑静な住宅地に三年ほど前に新築した本宅があり、仙台の遊廓《ゆうかく》で内所の裕《ゆた》かなある妓楼《ぎろう》の娘と正式に結婚してから、すでに久しい年月を経ていたが、猪野が寿々廼家の分けの芸者であった竹寿々の面倒を見ることになり、ほどなく詐欺事件で未決へ入っている間に、妻は有り金を浚《さら》って猪野の下番頭であった情夫と家出してしまい、今は老母と傭人《やといにん》と二人で、寂しく暮らしていた。猪野はこの事件のあいだ弁護士と重要な協議でもする場合に、お竹をも呼び寄せ、本宅を使うだけで、不断は二人で松島とか、金華山とかへ遊びに出かけるか、土地の料亭《りょうてい》で呑《の》むか、家で呑むかして、苦悶《くもん》を酒に紛らせているのだったが、お竹の芸者時代の馴染客《なじみきゃく》のことでは、銀子たちも途方に暮れるほどの喧嘩《けんか》がはじまり、宥《なだ》め役にしばしば本家のお神が駈《か》けつけたのだった。
不思議なことに、猪野が横領した二十万近くもの金を吐き出しも
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