いいじゃないか。ここへ来る時、前借金を全部資本にやったんだもの、君の義務は十分果たしているわけだ。」
そう言われて、銀子もその気になり、組んだ為替《かわせ》をそのまま留保し、次ぎの月もずる[#「ずる」に傍点]をきめていたのだったが、母の返辞が来てみると、金の催促もあった。占いは、大変好い話で、当人は十分その気になっているけれど、この縁談には邪魔が入り、破れるというのであった。
銀子は気持が暗くなり、高いところから突き落とされたような感じだったが、占いを全く信ずる気にもなれなかった。
八
八月の中旬《なかば》に倉持が神経痛が持病の母について、遠い青森の温泉へ行っている間に、銀子もちょっと小手術を受けるために、産婦人科へ入院した。
銀子は二月ほど前に、千葉で結婚をし損《そこ》なった栗栖が、この土地の病院の産婦人科の主任となって赴任したことを知っていたが、わざと寿々廼家のかかりつけの、個人経営の医院で手術を受けることにした。
彼女が栗栖に逢《あ》ったのは、山手にあるある料亭《りょうてい》の宴会にお約束を受けた時で、同じ料亭の別の座敷も受けていて、その方がお馴染《なじ
前へ
次へ
全307ページ中204ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング