どうしたの、遅がけだわね。」
「むむ、ちょっと銀行に用事があって、少し手間取ったものだから、途中自転車屋へ寄ったり何かして……。」
河《かわ》の上流にある倉持の家は、写真で見ても下手なお寺より大きい構えで、棟《むね》の瓦《かわら》に定紋の九曜星が浮き出しており、長々しい系図が語っているように、平家の落武者だというのはとにかくとしても、古い豪族の末裔《まつえい》であることは疑えない。
「倉持さんの家へ行ってごらん、とても大したもんだから。」
寿々廼家のお神も言っていたが、銀子にはちょっと見当もつきかねた。
彼は町へ出て来るのに、船で河を下るか、車で陸《おか》を来るかして、駅まで出て汽車に乗るのだったが、船も汽車に間に合わなくなると、通し車で飛ばすのだった。初め一二箇月のうちは、母が心配するというので、少しくらいおそくなっても大抵かえることにして、場所も駅に近い家に決めていたが、いずれも年が若いだけに人前を憚《はばか》り、今にも立ちあがりそうに腕時計を見い見い、思い切って帰りもしないで、結局腰を据《す》えそうになり、銀子もおどおどしながら、無言の表情で引き留め、また飲み直すのだったが
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