は主人や婆《ばあ》やの目を偸《ぬす》みながら、急速度で読んで行った。
「一片のパンから、こんなことになるものかな。」
 彼女はテイマの意味もよく解《わか》らないながらに、筋だけでも興味は尽きず、ある時は寝床のなかに縮こまりながら、障子が白々するのも気づかずに読み耽《ふけ》り、四五日で読んでしまった。
「これすっかり読んでしまったわ。とても面白かったわ。」
「解った?」
「解った。」
「じゃ明日また何かもって来てやろう。」
 今度は「巌窟王《がんくつおう》」であったが、婦人公論もおいて行った。
 ある晩方銀子は婦人公論を、膝《ひざ》に載せたまま、餉台《ちゃぶだい》に突っ伏して、ぐっすり眠っていた。主人夫婦は電話で呼ばれ、訴訟上の要談で、弁護士の家《うち》へ行っており、婆《ばあ》やは在方《ざいがた》の親類に預けてある子供が病気なので、昼ごろから暇をもらって出て行き、小寿々はお座敷へ行っていた。そのころ猪野の詐欺横領事件は、大審院まで持ち込まれ、審理中であるらしく、猪野はいつも憂鬱《ゆううつ》そうに、奥の八畳に閉じ籠《こ》もり、酒ばかり呑《の》んでいた。どうもそれが却下されそうな形勢にあると
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