したかって聞いていたから、もっとも金嵩《かねかさ》が少し上がるから、どうかとは思うがね。」
「そうね。」
銀子は田舎《いなか》でしばしば聞いていた通り、一番稼ぎの劇《はげ》しいのが東京で、体がたまらないということをよく知っていた。それにそのころの千円も安い方ではなかった。こうした場合かかる大衆の父母たるものの心理では良人《おっと》へのまたは妻への愛情と子供への愛情とは、生存の必要上おのずからなる軽重があり、子供が喰《く》われるのに不思議はなく、苦難は年上の銀子が背負《しょ》う以上、東京がいいとか田舎がいやだとか、言ってはいられなかった。好い芸者になるための修業とか、磨《みが》きとかいうことも、考えられないことであった。
「仙台《せんだい》はどうかね。家《うち》の娘があすこで芸者屋を出しているから、私の一存でもきまるんだがね。」
桂庵の娘の家では、何か問題の起こる場合に歩が悪いと、銀子は思った。
「やっぱり知らない家がいいわ。」
「それだとちょっと遠くなるんだが、頼まれている処がある。少し辺鄙《へんぴ》だけれど、その代りのんびりしたもんだ。そこなら電報一つですぐ先方から出向いて来る。
前へ
次へ
全307ページ中178ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング