り、銀子の稼《かせ》ぎではやっぱり追いつかず、大川の水に、秋風が白く吹きわたるころになると、銀子も一家に乗しかかって来る生活の重圧が、ひしひし感じられ、自分の取った方嚮《ほうこう》に、前とかわらぬ困難が立ち塞《ふさ》がっていることを、一層はっきり知らされた。
「お父さんとお銀ちゃんの稼ぎじゃ、やっと米代だけだよ。お菜代がどうしたって出やしないんだからな。」
 母は言い言いした。
 父母の別れ話が、またしても持ちあがり、三人ずつ手分けして、上州と越後《えちご》へ引きあげることになったところで、銀子はある日また浅草の桂庵《けいあん》を訪れた。

    郷 愁

      一

「おじさん私また出るわ。少しお金がほしいんだけど、どこかある?」
 いくら稼いでも追いつかない靴の仕事を棄《す》て年の暮に銀子はまたしても桂庵を訪れた。早急の場合仮に越して来た請地《うけじ》では店も張れず、どこか商いの利く処《ところ》に一軒、権利を買わせるのにも相当の金が必要だった。
「いくらくらいいるんだ。」
「千二三百円ほしんだけれど。」
「芳町《よしちょう》の姐《ねえ》さんとこどうだろう。この間もあの子どう
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