がはずんで露骨になり、人の好い師匠が驚いて、傍へ来て聴耳《ききみみ》を立てたりすると、親父は煩《うるさ》そうに、
「そこに何してるんだ。お前に用はない。あっちへ行っててくれ。」
 と慳貪《けんどん》に逐《お》っぱらわれ、彼女も度を失い、すごすご台所へ立って行くのであった。
 ちょうどそれと前後して、抱えの栄子が弁士の谷村天浪と深くなり、離れがあいていたところから、そこを二人の愛の巣に借りていたのて、藤本も人の出入りがしげくなり、若い弟子たちやファンの少女たちが頻繁《ひんぱん》に庭を往来し、そこに花やかな一つの雰囲気《ふんいき》が醸《かも》されていた。
「あんなの幸福な恋愛とでもいうのかしら。」
 銀子は思った。彼女は映画は飯より好きだったし、大学を中途で罷《や》めただけに、歴史の知識があり、説明に一調子かわったところのあるこの弁士にも好感はもてたが、その雰囲気に入るには、性格が孤独に過ぎ、冷やかな傍観者であった。
 何よりもせっかく入れた師匠に意地がなく、銀子の顔色をさえ見るというふうなので、世間への障壁にはなっても、銀子自身の守りにはならなかった。

      十八

 銀子はある
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