行くのよ。私は昨日行って来たばかしよ。」
彼は剽軽《ひょうきん》な目を丸くした。
「あれーお前の話に行くのよ。おれ一人でも何だから一緒に行こう。」
銀子は渋くった。この裏通りに一軒手頃な貸屋があり、今は鉄道の運輸の方の人が入っているが、少し手入れをすれば店にもなる。それが立ち退《の》き次第銀子の親たちを入れ、今一|棟《むね》、横の路次から入れる奥にも、静かな庭つきの二階家が一軒あり、それも明けさせて銀子が入り、月々の仕送りもするから、それに決めようと、親爺は昨夜も言っていたのだった。
十五
裏の家があき、トラックで荷物が運ばれたのは五月の初めで、銀子が潰《つぶ》しの島田に姐《ねえ》さん冠《かぶ》りをして、自分の入る家の掃除をしていると、一緒に乗って来た父が、脚にゲートルなぞ捲《ま》きつけてやって来た。――あの時本所の家では銀子が二階で赤ん坊をあやしているうちに、下で親父《おやじ》が両親を丸めこみ、出来たことなら仕方がないから本人さえ承知ならと父は折れ、母も少しは有難がるのだった。千葉から少し山手へ入ったところに逆上《のぼせ》に利く不動滝があり、そこへ詰めて通ったら
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