母は負ぶい紐《ひも》を釈《と》き、腕を伸ばしてにこにこ絣《かすり》の負ぶい絆纏《ばんてん》の襟《えり》を披《はだ》けて、
「お前これちょっと卸しておくれ、巣鴨まで行って来て肩が凝ってしまった。」
 そう言って脊《せ》なかを出され、銀子は少し伸びあがるようにして、赤ん坊を抱き取った。
「色黒いわね。いつ産まれたの。」
「お前んところのお母さんが亡くなるちょっと前だよ。」
 赤ん坊は眠り足らず、銀子の膝《ひざ》で泣面《べそ》をかき、ぐずぐず鼻を鳴らし口を歪《ゆが》めているので、銀子も面白く、どの赤ん坊もこうだったと、思い出すのだった。
「よし、よし。」
 銀子は無器用に抱きかかえ、起《た》ちあがって揺すってやったが、いよいよ渋面作り泣き出した。
「何だ、お前姉さんに抱っこして……。さあ、おっぱいやろう。腹がすいてるだろう。」
 母はそう言って赤児《あかご》を抱き取り、黝《くろ》ずんだ乳首を含ませながら、お産の話をしはじめた。銀子の時は産み落とすまで母は働き、いざ陣痛が来たとなると、産婆を呼びに行く間もなく、泡《あわ》を喰《く》った父が湯を沸かすのも待たなかった。次ぎもその次ぎも……。

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